罪と罰 Rikos ja rangaistus

1983年/フィンランド/カラー/35ミリ/93分
●製作:ミカ・カウリスマキ/監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:マルック・トイッカ/アイノ・セイッポ/エスコ・ニッカリ/マッティ・ペロンパー




「ドストエフスキーの小説の映画化は、絶対にやることはない」とアルフレッド・ヒッチコックが言った(「映画術」)のを読み、「それならオレがやる」と挑んだアキの長篇デビュー作。食肉解体工場に勤める青年ラヒカイネンが、恋人をひき逃げした男を射殺した。現場で目撃していたケータリング業者のエヴァは警察での証言を偽り、二人の間に次第に奇妙な共犯関係が生まれていく。ヘルシンキに場所を置き換え、ヒッチコックがその理由として「ひとことも削除できない」(同上)と言った原作の核心を大胆にすくい取って、殺人者ラスコーリニコフ=ラヒカイネンの葛藤を、台詞を抑え、画面と描写の力で描き出す。野心漲る驚異の処女作。
カラマリ・ユニオン Calamari Union

1985年/フィンランド/モノクロ/35ミリ/80分
●製作・監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:マッティ・ペロンパー/プンティ・ヴァルトネン/サッケ・ヤルヴェンパー/ピルッカ=ペッカ・ペテリウス/マト・ヴァルトネン/サカリ・クオスマネン




「イカ墨同盟(ルビ:カラマリ・ユニオン)」の15人の仲間たちが町を出て、町の反対側にあるという希望の地エイラへと向かおうと決起する。15人の名がすべてフランクだったり、深夜に無人の地下鉄を強奪して駅に着いたとたん、1人が車掌に殺されたりと、謎だらけのまま事態は唐突に展開する。遊び心とユーモア、毒気が交じり合い、かなり人を食ったこの第2作では、デビュー作とはまた違ったもう一つのアキの側面、「真面目な顔で冗談を言う」資質が存分に発揮されている。なお、後のレニングラード・カウボーイズのメンバー、サッケ、マト、サカリもフランクとして登場し、劇中ではその演奏も披露している。


パラダイスの夕暮れ Varjoja paratiisissa

1986年/フィンランド/カラー/35ミリ/75分
● 製作:ミカ・カウリスマキ/監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:マッティ・ペロンパー/カティ・オウティネン/サカリ・クオスマネン/エスコ・ニッカリ




マッティ・ペロンパー、カティ・オウティネンという、アキ映画を支えることになる二人が初めて主役を演じた、悲哀に満ちた恋の物語。ゴミ収集人のニカンデルは年老いた同僚の死に直面し、スーパーのレジ係、イロナをデートに誘うが失敗してしまう。一方イロナは理由もなく突然職場をクビになり、会社の金を持ち逃げしてしまった…。現実の厳しさに洗われ、ぎくしゃくと進展する恋の行方を、シンプルな描写で見つめていく初期の傑作。ヘルシンキの町の朝の光や、夜のアパートの一室を捉える見事な撮影、挿入音楽の歌詞が醸し出す情感が、深い余韻を残す。カンヌ国際映画祭監督週間・東京国際映画祭出品。
ハムレット・ゴーズ・ビジネス
Hamlet liikemaailmassa

1987年/フィンランド/モノクロ/35ミリ/86分
●製作・監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:ピルッカ=ペッカ・ペテリウス/カティ・オウティネン/エリナ・サロ/エスコ・サルミネン/エスコ・ニッカリ/カリ・ヴァーナネン




長編4作目、今度はシェークスピアの悲劇「ハムレット」に挑んだアキは、陰謀、毒殺、父の亡霊、オフェリアの水死といった骨子を残しながら、舞台を現代に、ハムレットを王子ではなく製材所・造船所をもつ社長の息子に仕立て上げる。重役のクラウスは社長夫人ガートルードと密通し、彼女が夫に運ぶ飲み物に密かに毒を盛る。社長に収まったクラウスはガートルードと結婚、反発するハムレットをよそに、自らの私欲のため造船所を売り飛ばすと言い出す…。緊張感に満ちたモノクロ画面の中、ラストには原作にはない驚くべき結末が用意され、人間の計り知れない暗部が口を開ける。


真夜中の虹 Ariel

1988年/フィンランド/カラー/35ミリ/73分
●製作・監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:トゥロ・パヤラ/マッティ・ペロンパー/スサンナ・ハーヴィスト/エートゥ・ヒルカモ




最新作『過去のない男』の原点とも言える、不幸に見舞われ続ける男の物語。ラップランドの炭坑夫カスリネンは、鉱山の閉鎖、ともに坑夫をしていた父の自殺に直面し、彼の残したオープン・カーと有り金すべてを持って南へと向かう。だが、暴漢たちに金を奪われ、日雇い労働で食いつなぐ日々に。1人の女性と出会って掴んだ幸せも束の間、暴漢を見つけてした仕返しが、今度は彼を刑務所に追いやるハメに…。フェード・アウトで繋がれる不幸な出来事の連鎖に、ふと挟まれるユーモア(極寒の中、カスリネンの車の幌が締まらない…)。ラストにフィンランド語訳で流れる≪虹の彼方に≫が見る者の胸に沁みる。ベルリン国際映画祭出品。
レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ
Leningrad Cowboys Go America

1989年/フィンランド、スウェーデン/カラー/35ミリ/79分
●監督:アキ・カウリスマキ/脚本:サッケ・ヤルヴェンパー、アキ・カウリスマキ、マト・ヴァルトネン/撮影:ティモ・サルミネン●出演:マッティ・ペロンパー/カリ・ヴァーナネン/サッケ・ヤルヴェンパー/サカリ・クオスマネン/ジム・ジャームッシュ




その前身となった実在するバンド「スリーピー・スリーパーズ」が、この映画で「レニングラード・カウボーイズ」と正式に名乗るきっかけにもなったブレイク作。極寒のツンドラ地帯で活動する、恐ろしく長いリーゼント、サングラス、つま先の尖ったブーツでキメた「売れないバンド」レニングラード・カウボーイズ。彼らはプロモーターの勧めで仕事を求め、屋外で凍死したメンバーを棺桶ごと引き連れて、一路ニューヨークへと向かう。だが、オーディションでポルカの演奏を聞いた男は、「メキシコへ行け」と彼らに告げた…。楽曲の面白さ、散りばめられるギャグも見どころの、可笑しくも悲しいロード・ムービー。


マッチ工場の少女 Tulitikkutehtaan tytto

1990年/フィンランド/カラー/35ミリ/70分
●監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:カティ・オウティネン/エリナ・サロ/エスコ・ニッカリ/ヴェサ・ヴィエリッコ/シル・セッパラ/レイヨ・タイパレ




『パラダイスの夕暮れ』『真夜中の虹』に続き、アキ自身が「敗者の3部作」と呼ぶ本作は、カティ・オウティネン演じるサエない少女が主人公。マッチ工場に勤め、母とその愛人を養うイリスは、身なりも質素でダンス・パーティーで踊りの声も掛からない。意を決して給料日にドレスを買うが、母の愛人には「売春婦」とぶたれ、そのドレスで出かけたディスコでは男と出会って幸せを手に入れたのも束の間、遊びだったと告げられてしまう…。台詞をほとんど用いず、画面の連鎖で浮かび上がらせるイリスの不幸な境遇、そして後半に展開する彼女の復讐劇。洗練と毒の極まった代表作の1本。ベルリン国際映画祭出品、国際福音伝道主義委員会インターフィルム賞・国際カトリック映画組織OCIC賞受賞。
コントラクト・キラー
I Hired a Contract Killer

1990年/フィンランド、スウェーデン/カラー/35ミリ/80分
●製作・監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:ジャン=ピエール・レオー/マージ・クラーク/ケネス・コリー/セルジュ・レジアニ/ジョー・ストラマー




ジャン=ピエール・レオーを主役に迎えたアキが、「イーリング・コメディ」のスタイルを取り入れつつ、スタジオではなくロンドン・ロケで撮ろうと挑んだ作品。フランスに居場所をなくし、ロンドンの水道局で働くアンリは、ある日突然解雇を言い渡され、絶望して自殺を図るが失敗してしまう。新聞記事で「契約殺人(ルビ:コントラクト・キラー)」の存在を知った彼は、タクシーの運転手から情報を入手し、自らの殺しを依頼。だがその直後、花売り娘マーガレットと初めての恋に落ち、アンリは殺し屋から逃げ続けるハメになる…。アキが生涯のベストに挙げる『肉体の冠』(ジャック・ベッケル監督作品・52)のセルジュ・レジアニも出演、本作には先行する映画への敬意と愛情が満ち溢れている。ヴェネチア国際映画祭出品。


ラヴィ・ド・ボエーム La Vie de boheme

1992年/フィンランド/モノクロ/35ミリ/100分
●製作・監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:マッティ・ペロンパー/イヴリス・ディディ/アンドレ・ウィルムス/カリ・ヴァーナネン/クリスチーヌ・ムリーリョ/ジャン=ピエール・レオー/サミュエル・フラー/ルイ・マル




企画から15年、アンリ・ミュルジェールの小説「ボヘミアンの生活の情景」を原作に、50年代から80年代のいつか、という寓話的な設定に変え、パリで撮り上げた念願の作品。戯曲が出版社に取り合ってもらえない作家のマルセルは、金がなく家賃滞納でアパルトマンの退去命令が出ていた。レストランでアルバニア人の画家ロドルフォと出会い、2人で部屋に帰ってくると、そこには次の住人、音楽家のショナールがピアノを持ち込み弾いていた。貧しい芸術家3人が出会って結んだ友情、仕事、恋を、アキは静かに、叙情を込めて描き上げる。特に後半、幸福なピクニックのシーンと、一転して訪れるロドルフォの恋の結末は胸を締め付けずにおかない。ベルリン国際映画祭国際批評家賞受賞。
レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う
Leningrad Cowboys Meet Moses

1994年/フィンランド/カラー/35ミリ/94分
●製作・監督・脚本:アキ・カウリスマキ/原案:サッケ・ヤルヴェンパー、アキ・カウリスマキ、マト・ヴァルトネン/撮影:ティモ・サルミネン●出演:トゥイスト・トゥイスト/ベン・グランフェルト/サッケ・ヤルヴェンパー/マト・ヴァルトネン/シル・セッパラ/マッティ・ペロンパー/カリ・ヴァーナネン/アンドレ・ウィルムス




『ゴー・アメリカ』続編のベースは、なんと旧約聖書。アキの言は「旧約は最悪だから、ジョークのネタにしようと思った」。メキシコの地で一度はスターとなったレニングラード・カウボーイズも、テキーラの飲み過ぎで死者が続出、マネージャーのウラジミールは失踪し、メンバー5人だけが残された。差出人不明の依頼で、ある日ニューヨークへと向かった彼らは、ウラジミールの生まれ変わりという男、モーゼに出会う。彼の命令で故郷シベリアを目指し旅することになった一行だが、モーゼのせいで彼らはCIAから追われることに…。途中でメンバーも10人に増強、フランスからヨーロッパを多彩な演奏とともに横断する、荒唐無稽にしてメランコリックな痛快作。


愛しのタチアナ Pida huivista kiinni, Tatjana

1994年/フィンランド/モノクロ/35ミリ/62分
●製作・監督:アキ・カウリスマキ/脚本:アキ・カウリスマキ、サッケ・ヤルヴェンパー/撮影:ティモ・サルミネン●出演:カティ・オウティネン/マッティ・ペロンパー/キルシ・テュッキュライネン/マト・ヴァルトネン/エリナ・サロ/イルマ・ユニライネン




『マッチ工場の少女』以来久々にフィンランドで撮られ、常連キャストが顔を揃えた愛すべき小品。母親に煙草を吸っては叱られ、コーヒーが切れていても「明日」とすげなくされる仕立屋のヴァルト。カッとなってクローゼットに母親を閉じ込め金を持ち出した彼は、修理した車の試運転に修理工のレイノを乗せ、道すがらバーへ向かう。店の前で立ち往生していたバスの乗客、ロシア女性クラウディア、エストニア女性タチアナに「港まで送ってほしい」と声を掛けられた彼らは、この願いを引き受けた。数日にわたる車での旅は、無口な男たちと、彼らを呆れながらも微笑ましく見つめる女たちの距離を、ゆっくりと近づけていく。カンヌ国際映画祭監督週間・京都国際映画祭出品。
浮き雲 Kauas pilvet karkaavat

1996年/フィンランド/カラー/35ミリ/96分
●製作・監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:カティ・オウティネン/カリ・ヴァーナネン/エリナ・サロ/サカリ・クオスマネン/エスコ・ニッカリ/サッケ・ヤルヴェンパー




フィンランドの失業の深刻化を受け止め、「映画にできることは希望を与えること」と、物語を「ハッピーエンドで締めくくることを考えた」アキ。本作はこれまでの作風にますます磨きを掛け、より深い人間的な温かみを刻み込んでいる。ヘルシンキの名門レストラン「ドゥブロヴニク」の給仕長イロナと、路面電車の運転手ラウリは仲のよい夫婦。慎ましい生活を送っていた2人だが、ラウリは人員削減によるリストラ、イロナはチェーン・レストランによる買収で、時を前後して失業してしまう。それぞれ見つかった職も上手くいかず災難が続く中、イロナは意を決し、かつての同僚や夫と新規レストランをオープンする計画を立てる…。カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品。


白い花びら Juha

1999年/フィンランド/モノクロ/音楽付きサイレント/35ミリ/78分
● 製作・監督・脚本:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン/音楽:アンシ・ティカンマキ●出演:サカリ・クオスマネン/カティ・オウティネン/アンドレ・ウィルムス/エリナ・サロ




フィンランドの国民的作家ユハニ・アホの同名小説で、フィンランドで2回、スウェーデンで1回映画化されてもいる有名作に、音楽付きサイレントの形で挑み撮り上げた冒険作。農業と家畜で生計を立て、仲睦まじく暮らすユハとマルヤの夫婦。人の良いユハ
は、都会からの移動中に故障で車を止めたシェイメッカの修理を引き受ける。だがシェイメッカはユハと年の離れた若いマルヤに目を着け、ユハを捨てて都会へ出ないかと誘いかけた…。古典的な三角関係のメロドラマを、サイレントの持つ効果とモノクロの画面でさらに寓話的な印象に包みながら、アキは人間の弱さと許しを見つめ、その悲劇性を鮮やかに浮き彫りにする。ベルリン国際映画祭フォーラム部門出品。




トータル・バラライカ・ショー
Total Balalaika Show

1993年/フィンランド/カラー/35ミリ/55分
●製作・監督:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:レニングラード・カウボーイズ/レッド・アーミー・アンサンブル




冷戦終結後の1993年6月、ヘルシンキで行われた、レニングラード・カウボーイズと旧ソ連退役軍人らで結成されたレッド・アーミー・アンサンブルとの合同コンサートを捉えたライブ・フィルム。7万人を動員し、シベリウスの≪フィンランディア≫から≪ヴォルガの舟歌≫、レッド・ツェッペリンの≪天国の階段≫まで、古今東西の楽曲を驚くようなアレンジで次々と演奏していく、圧巻と感動の55分。
ワイヤーを通して Thru the Wire

1987年/フィンランド/モノクロ/6分
●製作・監督:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン/音楽:レニングラード・カウボーイズ●出演:ニッキー・テスコ/レニングラード・カウボーイズ




アメリカ南部。脱獄囚が夜の町をさ迷い、追っ手をかいくぐって恋人に再会する。全篇に流れるタイトル曲は、脱獄囚が迷い込んだステージで歌われている。

ロッキーVI Rocky VI

1986年/フィンランド/モノクロ/35ミリ/8分
●製作・監督:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン●出演:シル・セッパラ/サカリ・クオスマネン/ヘイナシルッカ/マト・ヴァルトネン


86年、スリーピー・スリーパーズ&レニングラード・カウボーイズ名義でリリースしたアルバムの楽曲とメンバーの出演による、シルヴェスター・スタローンの「ロッキー」のパロディ。小さく痩せたアメリカ人ボクサーと体格のいいロシア人ボクサーが、それぞれ筋トレと減量を経て、ヘルシンキで対戦する。

俺(おい)らのペンギン・ブーツ These Boots

1992年/フィンランド/カラー/5分
●製作・監督:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン/音楽:レニングラード・カウボーイズ●出演:レニングラード・カウボーイズ/キルシ・テュッキュライネン


ナンシー・シナトラの歌った≪にくい貴方 These Boots Are Made for Walkin'≫のカバー曲に乗せて綴られる、レニングラード・カウボーイズ1952年から69年までの歴史。リーゼントに尖った靴の姿で生まれた赤ん坊が、学校に通い、サウナに入り、酒を覚え、恋をし、結婚する…。
悲しき天使 Those Were the Days

1991年/フィンランド/モノクロ/6分
●製作・監督:アキ・カウリスマキ/撮影:ティモ・サルミネン/音楽:レニングラード・カウボーイズ●出演:レニングラード・カウボーイズ/キルシ・テュッキュライネン


パリの夜。ロバを連れた1人の男がカフェを訪れ、エサを与えようとする。全編に流れるタイトル曲(ロシア民謡が原曲)は、68年にメリー・ホプキンの歌で大ヒットしたもの。店内で演奏され、コーラスにはキルシ・テュッキュライネンが参加する。


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