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プロミスト・ランド

6月29日(土)公開

若者たちは たったふたりで 禁じられた熊狩りに挑む
この映画には、明治時代以降、我々が進んで失ってきた
自然への畏敬と共生への願いがこめられている。 ――飯嶋和一【原作者】

プロミスト・ランド

©︎飯嶋和一/小学館/FANTASIA 

若者ふたり――信行と礼二郎。礼二郎は異様な殺気を放ちながらライフルの手入れに余念がない。一方、山形県の山深い街道に車を走らせる信行の耳には遠く山肌から滑り落ちる残雪の轟音がきこえてくる。雪崩は、冬眠の季節が終わり、熊撃ちの季節が到来したことを告げている。
 古くは平安時代にまで遡ると言われるマタギ。北海道から東北にかけて受け継がれてきたマタギ文化は、単なる狩猟文化ではなく、神仏への敬いの精神と共に培われてきた。
しかし、寄り合い小屋での親方の押し殺した声。「今年はどうも申請が通らねえみたいだ」。環境庁から県の自然保護課への通達により、今年はとうとう禁猟となってしまった。熊が減っているのだという。「今度の狩(ヤマ)は、なしだ」。
 夜明け前。暗闇の山道に、ふたつの人影。信行と礼二郎である。禁猟令を犯してでも、若きふたりをせき立ててやまぬものとは何か。マタギとしての意地か。共犯意識と男の友情か。マタギにとって熊は単なる獲物ではない。山神様からの恵みである。スポーツ感覚でのハンティングが横行し、ブナの木の伐採で野生動物の領域が荒らされていく中、マタギたちには、代々の作法を敬い、山の自然秩序を守ってきたという誇りがある。
過疎と閉塞感に包まれる郷土にくすぶってきた若者ふたりの、最後の熊撃ちが始まろうとしていた――。

視野一面に白銀に染められた山々の急斜面には、峻厳たる大自然の、透徹しきった美しさが現前する。しかしその美はもはや、人間を寄せ付けないほどに厳しいものにも思える。困難極まりない撮影環境にもかかわらず、熊撃ちの物語を映画にしようと決意したのは、飯島将史監督。これが長編劇映画デビュー作である。助監督として師事した阪本順治監督の硬派な血筋を受け継ぐ若き映画作家にとって、血の騒ぐような作家人生の始まりとなった。
 原作は、1983年に第40回小説現代新人賞を受賞した飯嶋和一のデビュー小説「プロミスト・ランド」。知られざるマタギの生活実相を映すドキュメントであると同時に、ふたりの若者の友情の物語でもあり、山・自然・生命をめぐる叙事詩でもある。
 主人公のふたり――信行を演じるのは杉田雷麟。2019年、『半世界』でヨコハマ映画祭最優秀新人賞、高崎映画祭最優秀新進俳優賞を受賞した次代を担う才能である。一方、礼二郎を演じるのは寛一郎。2018年、『菊とギロチン』でキネマ旬報ベストテン新人男優賞、高崎映画祭最優秀新進俳優賞を受賞。〈YOIHI PROJECT〉第1弾『せかいのおきく』での主演も記憶に新しい、現代日本映画界を背負って立つ若手俳優のひとりである。脇を固めるのは、信行の父に三浦誠己、母に占部房子、マタギ親方の下山役に小林薫、兄貴分・田島役に渋川清彦。
 少ない登場人物に、雪舟の水墨山水画のごとく清雅簡潔たる画面。単刀直入のセリフに、必要最低限の音楽。信行と礼二郎に導かれるように、観客も山深く歩を進め、早春の風に揺れる木々の音、鳥の鳴く声、雪解け水の流れる激流、雪の表面を踏みしだく長靴の軋みに耳を澄まし、やがて息も切れる行旅のまにまに…白銀の大地、漆黒の木々のあいだに……1匹の黒い影、熊の威容が見え隠れする。
 信行と礼二郎がいどむ最後の狩(ヤマ)は、いかなる結末を迎えようとしているのか?

・・・・・YOIHI PROJECTとは・・・・・
美術監督・原田満生が発起人となり、気鋭の日本映画製作チームと世界の自然科学研究者が連携して、様々な“良い日”に生きる人々の物語を「映画」で伝えるプロジェクト。

脚本・監督:飯島将史/原作:飯嶋和一(小学館文庫「汝ふたたび故郷へ帰れず」収蔵)
出演:杉田雷麟、寛一郎、三浦誠己、占部房子、渋川清彦 / 小林薫
2024年/日本/カラー/89分 配給:マジックアワー/リトルモア

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